RETURNING HOME 生まれ故郷

"KOSMOS" (コスモス=宇宙)茶碗の生まれ故郷、スイスの陶芸工房に戻ろう。


ここWinterthur(ヴィンタートゥアー)の美しい工房で、陶芸家Evi Kienast
(エヴィ・キーナスト)の手によって"KOSMOS"茶碗は創られた。


そして……ここはわたしの兄が1920年代、新任教師として赴任した学校からそれほど離れていない。


それはまだE=mc2(特殊相対性理論の帰結とした関係式)が発表される前のことであり、世界中にファシストの恐怖が蔓延する前のことだった。


原子力の研究が進む前であり、忌まわしい爆弾の落ちる前であった。わたしの生まれる前であり、Bob Dylan(ボブ・ディラン)の前であった。おそらくこれを読んでいる皆さんの生まれる前でもあろう。


16世紀後半の京都で千利休と長次郎が作った最初の茶碗にインスピレーションを得て、Eviが21世紀のために創った最初の茶碗が"KOSMOS"であり、2000年と2001年のEviの展覧会のメインは "KOSMOS"茶碗であった。


この茶碗をくり返しくり返し磨き、くり返しくり返し覗き込み、Eviは掌のなかに "KOSMOS"(古代ギリシャのピュタゴラスの言う『調和がとれ秩序ある宇宙』)を垣間見た。しかし彼女は言った。「これは売り物じゃないの。これはJackと広美のために作ったのよ」。

"KOSMOS"茶碗はわたしたちへの結婚のプレゼントになり、スイスのRasa(ラサ)のTerra Vecchio(テラ・ヴェッキオ=古い村という意味)の教会ではじめて「一碗の茶を四方に捧げる」献茶をおこない、広美のために一碗の茶を点てた。あれから何年もが経ち、彼女が焼かれたまさにその場所に戻ってきた。

Bruhlberg(ブリューベグ)はWinterthurにある7つの山のひとつで、炎にまつわる歴史がある。

Bruhlは悲鳴や泣き声を意味し、Bergは山を意味する。山がBruhlbergと名付けられることになったのは中世のころにさかのぼる。この辺りに住む地元民が、近隣に住むユダヤ人を集め、高いところに登らせ、火を放った。山は炎に包まれ、若者の悲鳴、年寄りの泣き声が聞こえ続けた。

いったい、悲鳴が止んだあとには何が聴こえたのだろうか。炎がおさまったあとには何を。彼らが心の声に耳を傾けたとすれば、何が聴こえてきたのだろうか。

おそらくわたしたちは、そんな時代―つまり人々が残酷で自分とは違う人々に敬意を払わない時代―から長い道のりを歩み、変化を遂げたのかもしれない。あるいは、その頃から大して変わっていないのかもしれない。でももちろんわたしたちは、自分自身のネガティブな因業をプラスに転じることができるし、世界のあちこちにあるネガティブな因業をプラスに転じることだってできる。


今日もまさにその歴史を持つ山で、Eviも炎を操っている。しかし創りだされるのは茶碗で、茶室で使われる。


あるいはキッチンで。リビングで。お稽古の場で。機会があればぜひEviの茶碗を手にしてほしい。わたしたちの中にある、すべてにつながる本当のハートで満たされている世界を想い出せることだろう。


茶道のお稽古ではこれを「和敬清寂」という。あるいはシンプルに「お茶は人をハッピーにする」という。


機会があればぜひスイスで今秋開催するイベントに合流願いたい。 "Sounds of Peace into the Four Directions"「サウンズ・オブ・ピースを四方に捧げる」コンサートに"KOSMOS"茶碗も行く。コンサートは9月6日に、このWeltheim(ヴェルトハイム)の小さな教会で開催される。Eviの工房からも、私の兄の赴任した学校からもさほど離れていないところだ。

Eviについて、Tee-Art seminar(テーアートセミナー)について、"Sounds of Peace into the Four Directions" コンサートについては、raku artを、そしてGallery Werkstatt-Laden(ヴェルクシュタットラーデンの画廊)についてはwerkstatt-ladenをクリックしてご覧ください。