UNESCO ユネスコ本部

ここパリのユネスコの本部には、イサム・ノグチ(日系アメリカ人)の作った、人間の美と神聖なるものの美の調和した素晴らしい場所がある。


そこは「ジャルダン・デ・ラ・ペ(平和の花園、通称『日本庭園』)」と呼ばれ、日本の伝統的庭園のあらゆる要素が盛り込まれている。五行(地水火風空)。目に眩しい緑。岩、石、木、茂み、小川、池、滝。木のベンチや石のベンチに座れば静かに思索にふけることができ、小路を歩めば石灯籠、能舞台、そして野点スペースまでもが眼に入ってくる。
 
この庭園から受ける印象が独特なのは、平和へのメッセージが明確に表されていることだ。
 

一例をあげよう。庭園のなかで一番背の高い石には逆さ文字が刻まれ、水に反射すると金文(古代の漢字)の「和」に見えるため「和の滝」と呼ばれている。「和」は「調和」を意味し、ご存知のとおり聖徳太子の定めた十七条憲法のまさに最初の一文字であり(和を以て貴しと為す)、茶道に親しむみなさんはもちろんご存知の通り千利休が唱えた四規すなわち「和敬清寂」のひとつめの文字でもある。


もう一つ例をあげてみよう。この「平和の泉」のそばにはコンクリートの円筒状の建物がある。実は安藤忠雄が設計した且座のための場所なのだ。中は空洞になっており、床に使用されている御影石は1945年8月6日の広島原爆で被爆した原爆ドーム近くの橋のものなのである。さらさらと絶えず流れる水が、かつて死の光を浴びた石を今日も洗い清めている。



最後にもうひとつ例をあげよう。このジャルダン・デ・ラ・ぺとユネスコの本部ビルをつなぐ路のことだ。B-29のナガサキでの原爆投下目標は(キリスト教の)教会だった。その教会は長きにわたり隠れキリシタンの集う場所であり、明治時代になってご禁制が解かれてからようやく教会が建てられたのだ。今日教会を偲ばせるものは殆ど残っていない。かろうじて残されたものはフランス製のアンジェラスの鐘、焦げた彫像、壁のごく一部、そして(比較的状態の良い)天使の小さな彫像。日本の茶室の床の間を模したスペースがあり、その壁に天使の像が掛けられている。床の間の向かいには石のベンチが置かれ、天使を眺め、時には瞑想し、自らと静かに対話できるところとなっている。わたしたちはここで茶を点て、ユウコとパスカルと彼らの子どもたちが「四方へ広がる平和を祈念」し献茶をした。

この「日本庭園」に入ることは(いろいろな理由により……)それほど簡単ではない。実際わたしたちの場合は(諸般の障害があり……)大変に難しかった! 住所はフォントノア広場7番地。場所はエッフェル塔から南東に歩くこと約1キロメートル。最寄り駅は地下鉄のサン・フランソワ・グザヴィエ(聖フランシスコ・ザビエル)駅。
 
もしよろしければ聖徳庵ホームページの"KOSMOS"もどうかご覧頂ければと思う。